御手洗渓谷
会社の人事で大阪支社にとばされた異動した年の夏、登山の楽しさを常日頃から職場の人々に布教していたしじみは、上司や先輩を巻き込んだ一大イベントを企画しました。
天川伝説殺人事件で有名な奈良県の天川村で川遊びをし、バンガローに泊まり、秘境・御手洗渓谷を歩き、洞川温泉に入る。奈良の自然を満喫できる、具だくさんイベントです。参加者はしじみを除いて8人(上司の奥さん・子どもを含む)を数え、なかなかに人気の企画でした。
予想外に多くの参加者があったため、当時はけっこう心配性だったしじみは(今はそうでもないのですが・・)、夏休みの1日を使い、近鉄電車に乗って、現場に下見に行きました。
昼前に現地についたしじみは、宿泊予定地を確かめ、御手洗渓谷の登山口あたりを少し歩いてみました。さすが景勝地で有名な御手洗渓谷、入口からかなり壮大な渓谷美をみせています。歩き疲れたしじみは、堤防の上から眼下十数メートルを流れる渓谷をぼーっと見おろし、そろそろここいらで引き返そうか、と考えていました。
ふと、背後から声をかけられました。地元人らしいおじさんが立っていて、親しげに話しかけてきました。
「どっから来られました?」
「えっと、滋賀県から・・」
「平日によくこんな田舎に来たねえ」
「あ、夏休みなもんで・・」
「あんまり川のそばに寄ったらあかんよ。落ちたら危ないから」
「はあ、すんません」
地元の人との交流が苦手なしじみは、じゃあぼちぼち帰りますんで、とおじさんに別れを告げ、来た道を引き返しました。帰る道々、「フェンスが張ってある堤防から落ちるわけないけどなあ・・」などとぼんやり考えていたしじみは、ふとあることに気がつきました。
あ!ひょっとして俺、自殺志願者だと思われたのでは!?
平日にこんなところをいい若いモンが一人でフラフラ歩いていたら、そう疑われても無理はありません。そうかーおっちゃんけっこう必死だったんだ・・激しい勘違いだけど。
そんなハプニングを経て、イベント当日。天気は少し悪かったのですが、バーベキューをしたり、花火をしたり、なかなか楽しい一日でした。
バーベキューの準備の時には、Sさんという上司の奥さんが陣頭指揮をとっていたのですが、この方がまたすごい人でした。
「ニンニクの皮むきにどんだけ時間かかっとんじゃあ!」
「ニンジンの切り方がなっとらん!そんなんでは指を落とすぞ!」
とすばらしい鬼教官っぷり。しかも言うだけあってこの方、テレビ通販のスライサーのごとき速さで山積みの野菜を高速処理していきます。さすがは主婦。野外料理歴10年のしじみのプライドはこっぱみじんにうち砕かれたのでした。師匠と呼ばせてください。
一夜明けて、いよいよ御手洗渓谷ハイキング。しかしメンバーの多数が登山を嫌がり、車でゴールの洞川温泉へ。しじみ+2人の上司という少数精鋭(?)で渓谷を歩きました。
御手洗渓谷はもう、感激の一言です。今までたくさんの川と滝を見てきましたが、ここはすごい。例によって写真がないのがものすごく悔やまれます。皆さんもぜひ行ってみてください。
そして、この御手洗渓谷と、その先の洞川温泉郷で、しじみは不思議なものを2つも体験しました。以下、オーパーツ伝説のはじまりはじまり。
<オーパーツファイル2>
「べとべとさん」という妖怪をご存じでしょうか?夜道を歩いていると、後ろから足音がついてくる。振り返ると、誰もいない。でも歩き出すと、また足音が聞こえる。そういう音だけの妖怪です。小さい頃、水木しげるの妖怪漫画のファンだったしじみは、この恥ずかしがりやで、かつ無害な妖怪がお気に入りでした。
この「べとべとさん」に、昼日中、御手洗渓谷で出会いました。川っぷちを歩いていると、確かに、自分たち以外の足音が聞こえる!追ってくる!うわあ怖いー!!
でも正体はすぐに割れました。この辺は長年の川の流れでえぐられた自然岩に囲まれており、歩くと足音が岩に反響して、一拍遅れで響くのです。なーんだ。
後日、改めてネットで「べとべとさん」を検索すると、なんと主に奈良県で出没する妖怪であるとのこと。わあすごーい!本場のべとべとさんに会っちゃったんだ!しかもネタバラシしちゃった!全国の妖怪ファンの皆様、夢を壊してごめんなさい。
そして、もう一つのオーパーツ。これはホンモノ!現代科学では解明できない!!
それは洞川温泉郷にある真言宗のお寺、龍泉寺でのこと。境内をプラプラ歩いていると、「なで石」という何やら面白そうなものが置いてあります。
「この石はなでると軽くなり、たたくと重くなります」
ウソだあー。全然信用しなかったしじみは、からかい半分で石をなでて持ち上げ、続いてたたいて持ち上げてみました。
・・本当だぁ!!
明らかに、たたいた後の方が重いのです。順番を逆にしても、たたいた方が重い。これは事件だ!本物のオーパーツを見つけたぞ!!
しじみは何度も実験をくり返し、しまいに並んでいた観光客たちににらまれて、しぶしぶ手ばなしました。うーむこれは不思議だ。たたくどころか割って調べてみたい。
そんなことしたら真言宗の法力僧たちに呪殺されそうですが・・。
<オーパーツ伝説に戻る>
そんなこんなで、楽しい奈良秘境巡りの旅は終わりました。そして1年後、しじみは再び秘境巡りツアーを立ち上げ、参加者を募りました。ところが昨年の参加者は1人去り、2人去り・・結局参加者はしじみの他に1名だけ。副支社長様と2人で大台ヶ原に行ってきましたとも。楽しかったですとも。うわーん。
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