金糞岳 Attack2 〜ジャングルの亡者〜


※「敗北地点」は後に判明した実測位置。意外と頂上に近づいていました。
 当時の我々は正確な位置が分からず、せいぜい登り全行程の3/5ぐらい
 までしか行ってないだろう…と思っていました。

■本図は(財)日本地図センター発行の25000段彩・陰影画像を元に作成した。(同センター承認済)
■この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである。(承認番号 平17総使、第82号)
※25000段彩・陰影画像は数値地図25000を元に作成されており、本図はその二次利用のため両文併記。


金糞岳(2)/2003年9月23日


このコースはまともな道ではないので、進むのにとにかく時間がかかります。なので2回目のアタックは、早起きして8時に入山しました。やはりサビサビのハシゴを越え(しじみは渡渉し)、ひたすら先へ先へ。前回の撤退地点にたどり着いたのが11時頃でしょうか。いよいよ未知の領域へ。胸が高鳴ります。

しかし、ここから先はさらにヘビーでした。「となりのトトロ」のワンシーンのようなブッシュのトンネル(ほふく前進でしか進めないような狭さなので、どちらかというと「天空の城ラピュタ」でラピュタ迷宮を爆走するパズー少年の気分かも・・)が延々続くかと思えば、今度は突然川に落ちて腰まで水につかり、財布も携帯もびしょびしょにしながらそのまま沢登り。ここは本当に日本なのか、ラバウルとかそういうところじゃないのかと思えるようなジャングルを、我々ははいずり回ったのでした。もはや道などというものはなく、ただ沢の源流を目指すのみ。それでも一向に、頂上にはたどり着かないのでした。

そして。撤退時間と決めていた午後2時が近づいてきました。ラスト10分、この地獄にもう一度ひき返すなんて絶対にイヤだー!!としじみはすごい勢いで岩に登り滝を乗り越え、後でMに「あの時お前は狂ったと思った」とおびえた顔で言われてしまうようなスーパーファイトを見せて、沢を突き進みまくりました。

しかし。それでも沢は終わりませんでした。2時を過ぎ、もうこれ以上進めば確実に遭難して死んでしまいます。ステキな彼女を見つけて愛し愛されて生きる未来(予定)を、こんな山中で捨てるわけにはいかない。我々は泣く泣く引き返すことにし、もってきたプレートに「敗北地点」と大書きして木に下げたのでした。プレートに名前を書いたので、興味のある人はここまでやってくればしじみの本名を知ることができます。来れるもんなら来てみやがれ(暴言)。

そして、足どり重い退却行。また泥にまみれ川に落ち、ただ人の住む世界に戻りたい一念で、しじみたちは歩き続けました。そんな時でした。2人目の超人に出会ったのは・・

<超人ファイル2>

「こんにちは」
彼は突然背後から現れました。こんな秘境に我々以外の人間などいるはずがない、と思っていたしじみたちは、人に会えてほっとするよりも、こいつは本当に人間だろうかと思わず身構えてしまいました。

彼は灰色の体操服のようなジャージを上下に着て、小さなザックを背負っていました。ジャージを着ていたからいうわけではないのですが、テツ&トモのテツに似たさわやかフェイスのお兄さんでした。見たところ30歳前後でしょうか。すっかり泥人形のようになってしまった我々に比べ、彼のジャージはなぜかピカピカでした。

彼は満面の笑顔で我々にたずねました。
「この川を登れば頂上まで行けますか?」

うん。まあ、真夜中までには着けると思います。その前に80%ぐらいの確率で遭難しますが・・などと答える前に、しじみとMは顔を見合わせました。

コイツ、頂上からじゃなければ、いったいどこから来たんだ!?

戦慄が我々の背中を走りぬけました。コースを歩けば分かりますが、我々の後から来て、我々に気づかれずに追い抜かすようなことは、ここではまず不可能です。仮にそれをやったとしても、服を汚さずにここまで来るのはもっと不可能。他の尾根道などからも、谷に下りるルートなどないはずです(あれば我々はそこからとっとと退避しています)。

Mがおそるおそる答えました。
「いやー僕らも頂上を目指してたんですけど、もうこの時間じゃとても無理なんで、引き返すとこなんですよー。ところで、どっから来られました?

彼はニコニコと答えました。
「右の方から」

右って何だ右ってー!!その一言でゾーッとした我々は、質問したいことはいっぱいあったけれど(「なぜ服が濡れてないんですか?」「僕ら今けっこう遭難寸前だと思うんですけど、なんでニコニコしていられるんですか?」「今が平成15年だってこと知ってますか?」)、それをする勇気がいっぺんに失せてしまいました。特に最後の質問は、異次元への扉を開いちゃうかもしれないし・・。

我々は作り笑いを浮かべて「じゃあお元気で」とかなんとか言い、逃げるように立ち去りました。彼も遭難しかかっているのなら引き留めて一緒に戻るべきなのですが、もはや我々には彼が人間だとは思えませんでした。

後日、彼はいったい何者だったのかという議題で、しじみとMは意見をぶつけあいました。

しじみ

しじみ

しじみ

しじみ
「ひょっとして自殺志願者だったんじゃないかな」
「自殺志願者があんなニコニコするか?服が汚れてない理由も分からんし」
「もしかして、昭和の時代からタイムスリップしてきたとか」
「そういうのはお前のヘボ小説だけにしろよ」
「・・じゃあ、お前は何だと思うんだ?」
自分がもう死んでることに気づいてない人、とか」
「そっちの方がありえねーよ!」

ついに結論は出ず、あれは人智を超えた存在なのだということになり、以後山で出会った不思議な人物は、「超人」の名で呼ばれることになったのでした。

超人列伝に戻る>

話は戻って、超人のお兄さんと別れた後の山中。日没と競走で果てしない密林地獄を下りてきたしじみたちは、どうにかこうにかあのサビサビハシゴの地点まで戻ってきました。

下りもまた、Mはハシゴを渡り、しじみは渡渉。しかし、すっかり日が傾いて夕闇が迫るなか、しじみは谷におりて渡渉したものの、ガケを登って本道に復帰するのに苦戦しました。つかまるべき木の根っこや、足をかける土のくぼみなどがよく見えないのです。3m弱の高さをなんとか登り、ガケのてっぺんに手をかけた、その時。足をかけていた土のくぼみが崩れました。

「ぅひえぇぇ」

しじみは珍妙な悲鳴をあげ、ズルズルとガケを滑り落ちて、しぶきをあげて川にはまりました。
「大丈夫かっ!?」ガケの上から心配してMが呼びかけています。少しフラフラしましたが、幸いゆっくり落ちたおかげでケガはありませんでした。

しかし。困ったことにガケが崩れて、登れる場所がなくなってしまいました。すっかり暗くなり、新たな登攀場所を探すこともできません。崩れた場所は半分ほど登れましたが、どうにもそこから上に進めず、しじみはすっかり往生(死語)してしまいました。

そこで救いの手をさしのべてくれたのが、やはり頼りになるMでした。愛用の金剛杖(と勝手に呼んでいるが、ただの木の枝杖)を伸ばし、引き上げるからつかまれ、と言います。ウン十kgのしじみをはたして引き上げられるのか?しばらく躊躇しましたが、他に手がなく、しじみは意を決して杖につかまりました。

「ファイトォォ!」
「いっぱーつ!」

すごい力でしじみは引き上げられ、ガケの上に生還しました。かっこいい!かっこいいよM!今はお前がケイン・コスギに見えるよ!褒めちぎるとこのシャイな男は不愛想になり、しじみを置いてさっさと先へ進むのでした。うーんさすが硬派の男。

すでに日が暮れて、あたりは真っ暗闇。持っていてよかったヘッドランプ!(←「見ていてよかったおもいッきりテレビ」風に)足元を慎重に照らし、ようやくダムまで戻りました。今日もまた生き延びた・・。

このアタックでしじみは着ていた新品のシャツをドロドロのズタズタにしてしまい、廃棄するはめになってオカンにこっぴどく怒られました。さらにその後2日間ほど筋肉痛がひどくて、階段の上り下りでヒイヒイいう日が続きました。我々は深く反省し、ついにこのコースは封印することに決めたのでした・・。


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