■本図は(財)日本地図センター発行の25000段彩・陰影画像を元に作成した。(同センター承認済)
■この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである。(承認番号 平17総使、第82号)
※25000段彩・陰影画像は数値地図25000を元に作成されており、本図はその二次利用のため両文併記。
金糞岳/2006.6.3-4
今回の登山録は特別編です。
しじみの体験ではなく、なんと読者の方が送ってくださった登山録、しかも遭難の記録です。
送ってくださったのは、滋賀県北部にお住まいのTさんという方。42歳の男性で、お子様もいらっしゃる壮年パパさんです。登られたのは金糞岳、かつてしじみと友人Mが壮絶なアタックをくり返したあの山です。
Tさんは友人の方とともに金糞岳に登られ、山中で日没を迎えることとなってしまい、一夜のビバーク(不時露営)を経て、お二人とも翌日無事帰還されました。
その後、ネット検索で当サイトを発見され、同じコースをたどったしじみに共感してくださって、「今後、金糞岳に行ってみたいと思われる方の警告として、自分の遭難記録を掲載してほしい」と詳しいレポートを送ってくださったのです。
この超マイナーメディアに掲載したところでどれほどの人が見るのかは分かりませんが、とにかく非常にうれしいお申し出だったので、一も二もなく掲載させていただきました( ^-^ )
このレポートは金糞岳・東俣谷川コースの凶悪さを物語るものであるとともに、遭難体験談としてもたいへん興味深いものです。遭難に至るまでの心理的な推移、遭難した時の心理状況、またはどのような装備が役に立ち、何がなくて困ったか。自分の登山スタイルや装備と比較してみると、非常にためになると思います。
文章はTさんの送ってくださったものを適宜編集しましたが、おおむねレポートに沿っております。
文中の→以降の文章は、帰還後のTさんが、当時の自分に対して入れたツッコミです。
また※の文章は、しじみの超おせっかいコメントです。いらんことしてごめんなさい。
あと、参考として、しじみの持っている同コースの写真を数点入れました。なので存在しないはずの友人Mが写り込んでいたりしますが、気にしないでください(
^-^;)
前置きが長くなりました。ではいきましょう。登山録に入る前に、まずはTさんの装備内容と、今回の登山の動機というかきっかけについて。
【Tさんレポート1 装備/登山動機】
<装備について>
◆服装◆
長ジャージと長袖Tシャツ
(シャツはドライなんとかという乾きやすいもの)
アルペンで買った一番安いトレッキングシューズ
(3980円?だったが、カード入会を条件に1000円引き)
アウトドア向け腕時計(気圧計・高度計付き)
◆道具・食糧関係・非常用具◆
リュック(平和堂のかばんコーナーで売っているもの)
タオル、軍手、携帯電話
大き目のスーパーのポリ袋(ただのごみ袋用)
1:25000地形図(PDAに入れたのと同じ地図をプリントアウト)
弁当用保冷BOX(保冷剤入り、昼食用)
お茶500ml(半分凍らせたもの)
ウィンドブレーカー(帰りが遅くなった時のために)
自転車用ポンチョ
(テルテル坊主代わり。私が雨対策すれば天気は崩れない)
◆GPS機器・関連器具◆
PDA(hx2410)+GPSレシーバー(CFGPS2)
GPS対応ソフトウェア:garmapCE
ピンオンリール(ワイヤーのもの。GPSホルダーとして)
予備バッテリ:MyBATTERY
EXPERT
(hx2410の内蔵バッテリでは4時間程度しかもたない)
<登山動機>
金糞岳に登る目的は、7月にある3連休に富士山登山を計画しているのですが、厄年のおっさんに登る体力があるかを見極めるためです。今回の金糞岳はあくまでも予行演習。高低差1100m前後であり、富士5合目からのアタックに比べればちょっと見劣りするかな?
装備についても、富士山ご来光プランにはヘッドライトが必要だと思うが、まだ購入していない。レインウェアについては2万円ぐらいのものか、5千円ぐらいのものかどっちにしようか迷っているところです。つまり、今回持っていった装備+ヘッドライト・レインウェアが、富士登山の装備の予定でした。
では、以下、登山録です。
【Tさんレポート2 登山録】
6/3、快晴ではないけど、よいお天気です。7時半に友人(独身、アパートに一人暮らし、ちょっと年下)宅へ迎えに行きます。自宅からは車で5分ほど。
友人も私とほぼ同様な装備でしたが、私と大きく違うのは半袖Tシャツであること。 プラスして、換えのTシャツをリュックに入れていたことです。
→大してかわらんやん。平たく言えば、お互いハイキング気分でした。
30分ほどドライブして、登山口近江高山のキャンプ場入り口に着きました。途中、コンビニでおにぎりを調達。さらに、頂上での祝杯のために、ビール500mlを2缶。 このための保冷剤と弁当用保冷BOXでした。
8:30。登山口に車をおいて、スタートです。
その前に、登山者カードを書きました(登山口にカードBOXがあるのです)。
住所、氏名、登山コースを書いて、何を持っていくかを記入します。
カードには、あらかじめ「必要な装備」としていろいろ挙げられていました。
無線?そんなん持ってへん。携帯ならあるけど、圏外やろ。
ツェルト?何それ? ■
非常食?お弁当代わりのおにぎり、余裕をみて5つ買ったよ。
お茶は500mlだけど、ビールも持参さっ。いいだろー。
懐中電灯?あれっ?いつもはPHOTONのマイクロライト3を持ち歩いているのに 今日は忘れちゃったよ。まっ、いいか。夕方までには帰ってくるから、いらないよ。女房には「17:00には帰るから」と言ったし。
まあ、いろいろないけど、軽いほうがええやん。
→無茶苦茶大間違い。ナメてました。
ビール1リットル担ぐなら他のもの担ぐべきです。
コースは初級者コースと中・上級者コースがあります(登山口付近にコース図の看板がある)。初級者は片道標準時間4時間40分、中・上級者は片道5時間5分となっていました。実は所要時間については下山後に確認したものです。登山前によく読んで、足し算はちゃんとすべきでした。
とにかく、頂上にたどり着く体力があるかないかを計るための演習です。登ることが第一目標だから初級者コースで登ろう。で、同じ道で帰るのも退屈だから違うルート(中級者コース)で
帰ろうということにしました。
→大間違い。私らははっきり言って「登山の経験はない」のである。よって、何をもって初級、中級を分けるのかも知らないのである。
※ここでいう初級者コースとは中津尾根コースを、中・上級者コースとは東俣谷川コースを指します。歩行時間については、高山キャンプ場スタートの場合、初級者コースで片道4時間、中・上級者コースで片道7時間半というのがしじみの実測タイムです。コースタイムについては、現地の看板にせよガイドブック類にせよ100%信用はできないので、「なんかヤバいな・・」と思った時は、予定時間の半分を切った時点で、潔く来た道を引き返すのが鉄則です。って、しじみもなかなかできないんだけど・・。
最初は、富士山計画は「大人の林間学校」というオペレーションネームにしようとか、それなら今日は「大人の林間学校・入学試験」だね、などとふざけたことをしゃべりながら歩いていました。
9:05頃。追分の分岐。右側の道を選びます。小さなダム(水門?)みたいなところでいきなり道がわかりません。こっちでええんやろうか?と思いながらも進むと 道らしき道になってきました。
9:40頃。休憩をとりました。場所は1回目の林道を横切る少し前のところです。10分ほど休み、歩きはじめるとすぐに林道に出ました。この鳥越林道は自転車で岐阜県側まで抜けたことがあるので 見覚えがあります。
10:30頃。「コモリ頭」というのでしょうか、少し開けた場所にでました。ここで15分ほど休憩。弱い風でしたが、心地よい風でした。 すこし行くと、いかにも整備された階段をのぼり、またもや、林道を横切ります。自転車よりも時間がかかるなーと思いながら、どんどん登ります。
自転車だと峠の1000mちょっとの高さまでしか登れません。今回は1317mまで登るんだい!
なお、林道を自転車で鳥越峠まで登った時は2時間かかりました(降りるのは20分でしたけど)。
11:20頃。「小朝の頭」かな?約1100m地点で休憩。当初、計画していた「50分歩いて10分休憩」は、50分歩きは遵守しているものの、休憩時間がだんだん長くなっていく気がします。
でも、ここでは10分弱で再スタート。
じっとしていると、ハエが私たちに集ってくるのです。ハエの羽音に我慢できないのです。
「男40過ぎが3時間もあるけば、ハエが喜ぶ、すんげぇーフェロモンがでるんだろうな」
そう思いながら、ハエを連れて登り始め・・登り・・あれ?
くだっとるやんか!せっかく集めた位置エネルギーを頂上につく前に放出するんかい!二人して、ぶつぶつ言いながら前進します。
11:50。待ちわびた、登り勾配になったのですが、ふくらはぎがつりそうになったので早くも休憩。お互い、もう、会話ができる状態ではありません。 そういえば、先ほど、頂上までの時間を書いた立て札がありました。「頂上まで20分」その横に「+10分」と落書きがあります。 鳥越峠からのアタックでは20分かもしれないが、キャンプ場入り口から登った我々のために、プラス側の公差をいれてくれたのだなと思いました。
なんとか10分で休憩を打ち切り、疲れた体に鞭打ち、登り始めます。
登山開始から4時間。やっと頂上に着きました。感動です。足はもうガクガクですが、二人とも達成感でニコニコです。
(頂上から北側の眺め)
ここで、おもむろにビールを友人に差し出します。朝、買ったことは内緒にしていました。友人の歓喜の声。早速、乾杯です。しみわたる・・・。
毛細血管のすみずみにまで命の水が行き渡る感覚でした。
→自分の行動の愚かさに気付かないバカヤロー二人組でした。
「今回は予行演習だけど、絶対に本番より256倍はしんどい行程やったはずや。
40超えてるけど、標準の時間で登れたいうことは、まだまだいけるで!
富士山らくしょー。俺らの体力は下り坂ではない!かんぱーい!
練習登山初日をもって、ビギナー卒業だぁ〜っ」
霞んでいて、景色は良く見えなかったけど、登れる体力があることを確認できて、大きな自信をつけていました。
→大バカ者です。ビールのんで、気が大きくなって、正常な判断ができなくなっていただけ。
山に登れた私たちは意気揚々でした。この時は二人とも、誰か様の「帰るまでが遠足です」というありがたいお言葉を全く知りませんでした。ビール飲んでおにぎり食べて、約1時間の休憩。
※「帰るまで・・」はココのことですね。まあしじみも遵守してないからこそよく書くんですけどね(
^-^;)
酒については、しじみたちも冬には、山頂でお湯割り飲んだりしています。酔っぱらって道に迷ったことも。まあ呑んでも呑まれなければいいのではないでしょうか(呑まれたヤツがいうセリフか
^-^;)
13:30過ぎに下山開始。今来た道を引き返すことも考えましたが、頂上の手前で、下りがあったよね。つまり、引き返すなら、そこを登る必要があるよね。 もう登りはいい。下り道がいい。登ることの目標を達成した私たちは登り道に拒絶反応を示しました。違う道で帰ろう。ここから先は下り坂ばかりのはず・・。
13:45頃、今から思えば、運命を分ける分かれ道に到達。まっすぐ行けば、隣の山(白倉岳)に登ることになる。曲がれば、中級者コースでの帰り道となる。 地図で見る限り、沢に沿ったコースです。しかし、こんな立て札がありました。警告です。
「この先は、所々、道が寸断されています。
できるだけこのコースは避けてください」
しかし、疲れきったところでビールを飲んで、とてもいい気持ちになっていた酔っ払いたちは気にしません。
「沢があるんだから、沢ぞいにいけばきっといけるよ。地図もそーなってるし」
→大間違いその2
※コース図では分かりにくいですが、1:25000国土地理院地形図では、東俣谷川に沿って破線すなわち登山道が記載されています。でもこれは完全なウソっぱち。航空写真の誤認か、あるいは50年ぐらい前にはあったかもしれない杣道の記録を延々と載せ続けているだけです。ここに限らず、地形図の破線は50%の確率で間違いだと思ってください。
標語:「信じる者は(足元を)すくわれる」
どんどん進み、一時間ほどしたところ。なんと、道がなくなっているではありませんか。追分を過ぎたあたりでの道のなくなりようとは雲泥の差です。 樹が生い茂っていて、道がどこにあるのかわからなくなっています。GPSで表示される方角には道があるようには思えないのです。
引き返そうかと思いましたが、位置エネルギーの吐出弁は開いてしまいました。今さっきの1時間降りてきたところを登るくらいなら遭難してもいいと思いました。
その時は…。
迷っていると、ちょっと離れた木の枝に赤いビニールテープが巻いてあります。これは道しるべだということに気づき、ビニールテープをたどりながら、
下山を進めます。
すでにペットボトルは空っぽです。私の装備に軍手がありました。友人と片手ずつ使いました。片手でもあると、両手無いよりは断然いいです。すでに道を歩いているような状態ではありません。 引き返したくない。という思いから、木の枝の下を匍匐前進したり、木の枝の上を乗り越えたりして、ひたすら前進です。
テープが川の対岸にある時がありました。最初は小さな水の流れだったものが、いつのまにか、狭いながらも流れの速い川になっていました。 小さな水の流れの沢がいくつか合流していたせいでしょう。深さも明らかに膝上まである。石はあるが、滑りそうで歩けない。相談して、ここは迂回しようと川を渡らずに、川に沿ってすすむ事にしました。頼りのテープはありません。登山道(?)から外れているのです。
川沿いに進みましたが、大きな岩にさえぎられて進むことができなくなりました。斜め後ろを見ると、川底が浅そうです。相談して、とりあえず、渡ることにしました。 私が先頭です。じゃぶじゃぶと進み、もう少しで渡りきるというところで、バランスを崩して倒れそうになりました。
すかさず手を伸ばし、向こう岸の草につかまり、川の中で倒れることは防ぎました。が、勢いあまって、その草で顔を払ってしまいました。 なんとその草は私の顔だけでなく、メガネも払ってくれたのでした。メガネ落としちゃいました。川の中に…。
メガネは見つかりませんでした。視力0.1ですが、歩く時の足元はわかります。でも、薄暗くなり始めた山の中で、頼りとしていた木の枝にあるテープを探し出すのが困難になりました。 予備のメガネもあるはずがなく、出るのは冷や汗とため息。どーしよ。
※しじみは(子どもの頃勉強しなかったので)視力が良く、メガネ等持ったことがないのですが、普段メガネの方は、山行の時に予備を持っていったりするのでしょうか?あるいは落とさない工夫があったりするのでしょうか?気になる・・。
GPSで現在地を確認すると、ゴールである登山口までは直線で3km以上ありそうです。時刻はもう16:00近く。
喉の渇きは川の水でのうがいで我慢していましたが、我慢しきれず、ペットボトルに汲み、飲むことにしました。 明日はゲリP−かもしれない。帰ってからならいいが、下山までになってしまったらどうしよう?ティッシュペーパーは少ないぞ。
GPSで登山道の近くにいることもわかりましたが、道と思える場所が見当たりません。テープも見当たらないよ。そういえば、女房に17:00に帰るって言ったよな。 携帯は圏外になってるし、連絡とれんわぁ。連絡せんかったら怒るやろーなぁー。メガネなくしたの言ったら、これも怒るやろーなぁー。
お互い、疲労が目に見えるようになってきました。木の根や枝に埋まっている道を進むため、足を大きく上げる必要があります。もう、上がらないよ。私の足。 でも、帰るためには、進まねばならぬ。木の枝をくぐり、または、乗り越え進まねばならぬ。でも、お互い口に出して言いませんが、暗くなるまでに脱出できないかもしれないと思いはじめていました。
バタッ。枝に足をとられ、いきなり倒れる私。足がつった。ふくらはぎがピクピクしている。高校の頃のクラブで足がつったら 「筋肉が喜びの悲鳴をあげている」と茶化したものですが、今日のは「絶望の雄たけび」です。
さらにもう一つ、「絶望の雄たけび」。GPSレシーバーがない!先ほどの、茂みをくぐりぬけた、もしくは乗り越えた時に、落としてしまったようです。
これでは現在地がわからない。あとどれだけ進めばよいのかわからない。どこまでゴールに近づいているかわからない。それに、GPSのレシーバー、高かったのに・・。
GPSレシーバー紛失については、友人の顔も蒼くなりました。道のない山の中で、自分の居場所がわからなくなった時、言いようのない不安感に襲われます。 疲労と絶望感のせいで、探しに戻る元気もありません。
私 友 私 友 私 |
「なんか、防寒着みたいなのもってる?」 「ウィンドブレーカーだけ」 「私も。でも、雨が降らないおまじないとしてポンチョもあるけど」 「もうちょっと進もうか?」 「うん」 |
声のトーンがお互い低いです。言葉には出しませんでしたが、2人とも決意しました。晩御飯は抜き。ですが、この時には私は2個、友人は1個のおにぎりが残っていました。正直言って、絶望感はありましたが、空腹感はお互いありませんでした。 でも、完全にガス欠状態になってしまうのは危険と思い、私の持っているおにぎりのひとつを半分ずつ食べました。
今日はTVも見られない。
いつもの布団の上では眠れない。
きついお仕置き、体罰以外の何者でもありません。
こんなお仕置き、我が子にもやったことありません(普通そうですね)。
今晩は「野営」。「野宿」とも言います。
でも普通、それなりの準備はあるもの。私ら、なーんも持ってません。山の中って、何度まで下がるんだろう?今晩、泊まりになること、家に連絡できないなぁ。
いろいろ考えながら進むと、19:30。周りが見えなくなってきました。周りも暗いし、気分も暗い。聞こえる音では、川の合流地点のようです。
ライトの類を持っていない私たちは、携帯のディスプレイで地図を照らし、現在地の確認をします。地図では2箇所合流地点があります。このどちらかにいるはず。 時計のボタンを何回か押すと、標高表示に切り替わった。地図から読み取る標高とは10mぐらい違うけど、たぶんこっち。ゴールに近いほうにいる。居場所がわかりました。すんげー安心感。
※しじみも昔は間違っていたのですが、地形図では水色に塗られている所だけが川なのではありません。山岳地帯では、等高線が「谷」になっている所は全て、水が流れている可能性があります。ここ東俣谷川でも、実際にはざっと10本以上の支谷があり、合流地点も同じ数だけあります。したがってよほど分かりやすい地形でない限り、川の合流地点で現在位置を判断するのは危険です。Tさんの場合は結果的に正解だったようですが・・。
また逆に、水色に塗られているからといって必ず水があるとも限りません。水場と思って期待していると、涸れていたということもあります。ここでも「信じる者は(足元を)すくわれる」です。地形図で信じていいのは等高線だけです。
19:30ですが、その場で寝ることにしました。お互いにしゃべる元気がありません。朝、ビニールテープが見えるくらい明るくなったら 行動開始にしよう。とだけ話して寝る態勢に入りました。川でずぶぬれになった靴と靴下を脱いで、ウィンドブレーカーを着て寝ました。足が寒いので、持ってきたスーパーのレジ袋に足を突っ込みます。ちょっとはましです。
寒い。地面がどんどん体温を奪っていきます。そうだ。ポンチョを着よう。ウィンドブレーカー以外の装備を持たない友人は、とりあえず、Tシャツを新しいものに着替えてからウィンドブレーカーを着込みました。自分だけという申し訳ない思いもありましたが、私はポンチョを着て寝ました。
寝返りをうとうとすると、極度の疲労のせいか、足がつります。サイテーです。山を甘く見ていた自分が情けないです。気軽について来てくれた友人にこんな思いをさせて 申し訳ない気持ちでいっぱいです。
女房は何しているだろう。警察とかに届けを出してるだろうか?
夜中に「おーい」とか言いながら誰か来たらどうしよう?
または、登山口に戻ったら、いっぱい人だかりができていたらどうしよう?
そんなことを考えていると、風で、木の枝が揺れているのに気が付きました。
本当に木の枝なの?見えないんです。メガネなくしちゃって。
なんか、犬か何かが頭を揺らしているかのようにも見えます。
本当に犬?やっぱり、ただの枝?不安が不安を呼びます。
遠くの木の枝の隙間から明かりが見えたような気がしました。
ただの月明かり?捜索隊?それとも凶悪殺人の逃亡犯?
ああ、昨日の夜に名探偵コナンなんて読まなきゃよかった。
寝たような、寝られなかったような感じで朝が来ました。4時です。友人と最後のおにぎりを食べて、出発です。明るくなったので道しるべのテープが見えます。 うれしーい。テープを見つけるたびに次のテープが見つかります。
しかし、危険な場所もありました。15cmぐらいの幅しかなく、下は5mぐらいの崖になっていたりします。昨日、暗い中を無理して歩かなくてよかった。 歩くにつれ道も道らしくなり、空のペットボトルやコンビ二の袋が落ちていたりします。普通だと、ゴミを捨てちゃだめだよと思うところですが、 今回は「人がいた証拠」と思え、安心感がわきでてきました。
午前6時、ついに、登山口まで戻ってきました。
おなかの調子も大丈夫です。即、家へ電話と思いましたが圏外です。しばらく歩くと、これから登ろうとする50代ぐらいのおじさん達とすれ違いました
(でも、私らもおじさん)。
久しぶりに知的生命体に出会った気持ちでした。しかじかと経緯を話したら、かなりびびっていましたが、なんとかなるだろうと言って登っていきました。
ご武運を祈ります。
私らもなんとかなると思ってたけど、なんともならんかったもんね。
6時半、携帯のアンテナがたちました。家に電話する私。
「心配かけてごめん。今、おりてきたところ。怪我とかしてないから」
「本当に心配かけたね。はよー、帰り」
予想はしていましたが、嵐の前の静けさです。
キャンプ場入り口で、昨日の朝に書いた登山者カードを回収しました。回収しなかったら、下山していないと思われるのかな?
※これはどうなんでしょう?場合によっては、回収しなければ後で警察?から電話がかかってくることがあるかもしれませんね。でもコースによっては必ずしも登山口に戻らないこともあるし、そうすると回収が面倒。なのでやはり、登山届けは家で作成して家族に渡しておくのが一番でしょうね。
実際に遭難して、捜索がかかるとしても、結局家族が捜索願いを出してはじめて捜索がかかるわけだし、ならば初めから家族が登山者の動向を把握していた方がスムーズです。
車に乗って少し下ったところで、自販機を見つけて、スポーツドリンクを2本(計1リットル)飲みました。おいしかった。
怪我もせず、帰ることができました。友人宅の前に着いたら7時半。計ったように24時間ぶりの生還です。「これから、爆睡間違いなしやね」といって別れました。
帰宅してからは、「心配かけて。もう腹がたつ」の連発でした。
「貴重な体験ができて、いい思い出になった」と負け惜しみをいうと、
「あんたが思い出にならなくてよかったわ」と言われました。仰せのとおりです。
女房は夜中に軽自動車で林道を登り、クラクション鳴らしたり、カーステレオのボリュームを上げたりしたそうです。女房の妹に電話とかして相談したそうです。 義弟が朝まで待つしかないなぁと言ってくれたようで、遭難届けの類は出さなかったようです。
※すんばらしい奥様ではないですか!!(ToT) ←猛烈に感動している
追い討ちのお言葉。
「あんた、富士山行くお金で富士山行くの?メガネ買うの?どっち?」
えっ?
貯めたお小遣いは富士山1回分しかありません。GPSレシーバーもどうしても欲しいです。というかソッコーでオークション落札しました。 サイクリングのログ採りに使いたいし、GPSレシーバーのためにMYBATTERYを購入したのだから。
しかし、富士山行きたいから、昔のメガネ(ちょっと度が弱い)でいい。とは言えず、モンモンとしております。
◆今回得たもの(教訓)
・ ライトは必需。
・ 自分は初心者であるという自覚。
・ おにぎりは余分目にもっていったほうが良い。
・ 帰る時間は遅めに言うこと。
・ 「帰るまでが遠足」
・ ティッシュペーパーは余裕をもつこと。
・ 杖はブッシュの下が地面になっているか空間になっているかを
確かめるのにとても有効でした。
◆無くした物
・ GPSレシーバー ・・2万円
・ メガネ ・・3万円
・ 大人の林間学校プランと信用(親父の威厳) ・・プライスレス
ショックー・・・_| ̄|○
(おわり)
Tさん遭難記、いかがでしたでしょうか?
ご自身で書かれた記録のため、遭難した自分自身に対して、非常に厳しい文章になっていますね。それをさらにしじみがネタっぽく編集し、加えて傷口に塩をすり込むような「しじみコメント」を間々に入れていますので、読まれた方は「単にこのTさんって人がナッテナイだけなんじゃないの?普通は遭難なんてしないよ」と思われるかもしれません。
でも、そうではないのです。Tさんは非常時の用意はけして十分ではありませんでしたが、GPSや高度計といった位置把握グッズはしっかり装備され、実際に道迷いは全くありませんでした。
また、コースタイムからみるに相応の体力も十分備えておられ、あのヤブ地獄の東俣谷川を(ビバークしたとはいえ)ほとんど無傷で、しかもそれなりのスピードで下りてきておられるところからも、
総合的な身体技能はかなり高いとみられます。
この踏査能力と身体能力なら、単に距離だけで考えれば、日帰りで下りられると判断しても、けして間違いではありません。地形図にも、一部ガイドブックにも、登山コース看板にも記載してあるコースなんですから、行けると信じたのも無理はないのです。
あえて言うなら、敗因(?)は東俣谷川が想像を絶するヤブだったにもかかわらず、撤退の時期を逃して深入りしてしまったことですが、これはしかし、相当の経験があっても、いやむしろ下手に経験がある方が陥りやすいワナと言えます。つまりTさんの遭難は、このコースを選んだ時点である程度不可抗力であったといえるのです。もししじみたちが、金糞岳アタックの初期の頃にTさんと同じコースを選んでいたとしたら、まず間違いなく、しじみたちも復路の東俣谷川のどこかで遭難していたでしょう。選ばなかったのは単に運にすぎません。
なので、しじみは読後感想として、以下のように思いました。
「東俣谷川のような、多くの人を遭難させかねない魔性のコースというものが稀にある」
「だから、どんな人でも、遭難する時は遭難する。
そのため、年齢性別知力体力運勢を問わず、登山に非常用装備は必須である」
当たり前のことを言っているように聞こえますか?でも、「自分は絶対遭難しない」と思って、非常用装備をおろそかにすること、ありませんか?しじみも時には、低山と思ってナメてかかり、装備少な目のことがあります。でもTさんのレポートを読んで、そういうことは絶対にしてはいけないと思った次第です。こういうの、登山歴が長くて遭難歴がない人ほど、どんどんおろそかになりますよね。恐ろしいことです。
あえて辛口コメントしますが、レポートを読んで「別にケガをしたわけでもなく、死人が出たわけでもなく、捜索もかかっていないのだから、遭難というには大げさではないか」と思ったアナタ。間違いなく遭難予備軍です。Tさんパーティーが無事帰れたのは、もちろんその体力知力も大きいのですが、詰まるところはやはり運。もし夜から豪雨になっていたら。あるいは時期が、凍死の危険がある春先だったら・・。
Tさんは謙虚に、自分の陥った事態は「遭難」であると言い切っておられました。遭難の明確な定義などはないのですが、不測の事態に陥ったらそれを遭難と思い、たとえ無事帰れても、起こった事についてしっかり反省し、次回からしかるべき対策をとる。そういう考え方ができるかどうかが、山で死ぬか死なないかの分かれ目だと思います。
Tさん、たいへん有益なレポート、本当にありがとうございました。情報の詳しさもさることながら、自分をさらし者にしてでも遭難の実際を世に広め、他の登山者の不幸を未然に防ごうという心意気がすばらしいと思います。富士登山、すぐには無理でもいつか成就されるよう、お祈りしております。読者の皆様もぜひお祈りを・・( ^-^;)
なお、これを読んでもまだ東俣谷川コース(というコースは実は存在しないのだけど)に行きたいという大馬鹿な人は、登山届けとともに遺言を家族に渡してから行ってください。とりあえず国土地理院は地形図の破線を抹消しろ〜!