【谷山・県境尾根】 滋賀県犬上郡多賀町(三重県境)


本図は(財)日本地図センター発行の25000段彩・陰影画像を元に作成した。(同センター承認済)
■この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである。(承認番号 平17総使、第82号)
※25000段彩・陰影画像は数値地図25000を元に作成されており、本図はその二次利用のため両文併記。

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谷山/2005年10月9日 
 

鈴鹿スペシャルも余すところあと2コース。今回はついに鈴鹿の最北端に王手をかけることとなりました!

今回のコースで名のあるピークはたった一つ。鈴鹿の名峰・霊仙山の隣りに位置しながら、ほとんどその名を知られず、登る人も少ないマイナーピーク「谷山」です。谷なのに山、という、よく考えたらツッコまずにはおれない不思議な名前なのですが、誰も指摘しないあたりがそのマイナーさを物語っています。

さらにその先の県境尾根は、各種ガイドブックに載ってないのはもちろん、ネットで検索してもほとんど出てこない無名ルート。後で調べたら「山と高原地図」でも破線すら引かれていないありさまでした。そこまで徹底無視されるからにはよっぽどマズいルートに違いないのに、長大な稜線に魅せられたしじみ達は「こりゃひょっとしたら穴場かもしれん♪」と脳天気に喜び、快適な尾根道歩きを想像して踏破を楽しみにしていました。

さて、気づいた方もおられるかと思いますが、本当は縦走という登山のやり方からいくと、今回はこの最北端コースではなくて、先に以南の全コースを制覇するのがスジです。そして、最後に本コースを、五僧から出発して北端の関ヶ原まで歩き、みごと大団円・・となるべきでした。
いったいしじみ達にいかなる災厄が降りかかってこちらが先になってしまったのか・・というと、実は大した理由はなくて、単に難しいコースは後回しにして早くこのコースを楽しみたい、という問題先送り志向によるものでした。さらに「北上にこだわらないんなら、よりラクな南下コースをとったら?」というなしくずし的発想により、本来は栄光のゴールであった関ヶ原からスタートすることになりました。もうメタメタもいいところです。

さらにもう一つ。(まだあるんかい・・)
厳密な意味で縦走すなわち稜線踏破を目指すならば、谷道の柏原林道ではなく、関ヶ原の長久寺という集落から尾根にとりついて、竹尻〜観音峠〜オボラ(天神)〜二本杉(柏原登山道一合目)と進むのが本来なのですが、このルートはMが「オレもう前に歩いたから行きたくない。すごいヤブやったし」とのことで却下。したがって本当に鈴鹿スペシャルを達成したのはMだけかもしれません。(まあ二本杉以北はほとんど里山で、一般には谷山が鈴鹿山地の北端とされているようですが・・←自己弁護)

さて、いつものようにひととおり言いわけが終わったところで登山の話です!
前日に五僧まで車で行き、しじみのネイネイ号を廃村に置き去りにして、友人Mの車で長浜のM邸へ。M邸で一泊して、翌早朝に再びMの車で柏原を目指します。

人の頭大の岩がゴロゴロ転がる柏原林道を、車で行けるところまでガンガン詰めるM。しじみは「そんなに無理しないでも、もうここらへんでいいよ」と止めたのですが、Mは「いや、距離は稼げるだけ稼ぐ」と言って聞きません。

そしてついに、ゴリゴリゴリッという不吉な音がしました。あわてて外に出て車の底を見てみると、底板の一部がはがれています。
「オイオイこれマズいんじゃないの?」焦るしじみに、「まあこんなの戻ってきてから修理に出せばいいから」と、平然として登山続行を主張するM。結局、「とりあえず走行に支障はない」とわかったので、車を道脇まで移動して停め、予定通り登山を開始することになりました。

柏原林道は、谷道であるためしばしばヒルを見かけるのがいただけないところですが、整備されて歩きやすい道です。ほどなく一合目(稜線との出合)にたどり着き、さらにサクサク進んで、順調なペースで四合目避難小屋に到着しました。

四合目避難小屋。小屋っていうかコンテナです。

しかしこの四合目避難小屋、コース図で分かるように非常に中途半端な位置にあり、いったいどういうプランを立てたらここを泊地に利用することになるのかとんと分かりません。登山口からは近すぎるし、霊仙山台地からは遠すぎる。霊仙山台地に新しい小屋ができる以前から存在したのでしょうが、その当時からほとんど使われてなかったのではないでしょうか?どうにも謎な建物です。

さらに進んで七合目へ。七合目分岐を過ぎてすぐに、「ママコ穴」という縦穴があります。例によって写真がないのですが、深さが22mもある地獄の入口のような穴です。

ここには興味深い伝承があります。漢字で書くと「継子穴」で、この名前からすると、継母が継子を突き落として殺す「今度は落とさないでね」系の怪談話を想像するところですが、ここの話はそれとは一風変わっているのです。

伝承によると、継母が継子を突き落とすまでは一緒なのですが、その後が違います。継子を突き落とした後、継母が家に戻ると、殺したはずの継子が戻っていて風呂を沸かしており、「お母さん疲れたでしょう、どうぞお風呂に入ってください」とすすめる・・という何ともゾッとするストーリーなのです。「今度は・・」より10倍ぐらい怖いです。継子おそるべし。

しかし、これは割と実際にありそうな話です。この継母・継子がどこに住んでいたのかは分かりませんが、おそらく梓川集落に住んでいたのではないでしょうか。きっと継子は突き落とされたものの、穴のふちにつかまるなどして無事だったのでしょう。継母は継子の生死を確かめることなく、怖くなってさっさと逃げ出しました。穴からはい上がってきた継子は、当時まだ一般に知られていなかった梓川登山道を通って家に戻り、一方の継母は柏原林道を通って戻ったとすれば、この西村京太郎トラベルミステリーのような物語のトリックが説明できます。先に戻った継子は、今後また継母に危害を加えられないよう、この機会を利用して継母に絶大な恐怖を与える作戦を思いつきます。それが「何もなかったふりをして風呂を沸かす」という行動なのです。

・・とかなんとか延々と説明してMにうっとうしがられるうちに、谷山が近づいてきました( ^-^;)

ところが、ここで困ったことになりました。霊仙山登山道はそのまま西に続いているものの、南の谷山へ向かう道が、どこを探してもないのです。しじみは「きっとこの先には行くなってことなんだよ〜」と早くも弱気です。

しかしMは「僕の前に道はない、僕の後ろに道は出来る」とかどっかで聞いたようなセリフを吐いて、谷山の方向へ、道なき林を突っ切っていきます。仕方がないので、しじみも不承不承後を追いました。こんな道のないところを行くとクマやハチの巣に出くわしそうで怖かったのですが、さいわいすぐに暗い林を抜けて、眺めのよい谷山の尾根に着きました。


谷山の西尾根から見た霊仙山台地。避難小屋(矢印)も見えます。

霊仙山の眺めを楽しんだ後、尾根を東に進んで谷山の頂上に出ました。プレートでそれと分かりましたが、、それがなければここがピークだとはまったく分からないような、笹薮に囲まれた小さな空き地です。
やはり北側に道はなく、地形図にある東からの登山道もなくて、ただ我々が林を突っ切ってやってきた西側と、これから進む南側にわずかな踏み跡があるばかり。いかにこの山および県境尾根が周囲と隔絶し、見捨てられた存在であるかが分かります。

しかし、谷山周辺はヤブだったものの、この後に続く県境尾根は、事前の予想通りけっこう快適な尾根歩きでした。誘導テープはほとんどなく、迷い込みそうな支尾根がたくさんあって気を抜けないところではありますが、さえぎるものが少なくてGPSの電波がよく入るため、GPSハイカーにはたまらないルートです。


鹿よけフェンスに沿って歩きます

展望は主に東側に拓けていて、ソノドことP926がよく見えます。このへんは「ソノド」「コザト」「オボラ」など日本語ばなれした名前の山が多く、伝奇ロマンをかきたてられます。いつかじっくり調べてみたいなあ・・。

昼食をとり、またひたすら先へ進みます。しかしこのルート、とにかく長い。最後から数えて2つ目のピーク・P695にたどり着いた時にはもうヘトヘトです。日も傾いてきて、やや焦りが出てきました。

ところが、このP695以降がすさまじい道でした。斜面が大きく崩落していて、ほとんどロッククライミングの要領で降りなければなりません。おっかなびっくり、普段の3倍ほどの時間をかけてようやく降りたら、そこはまるでタールのような泥濘地帯。ヒルもそこここに見られます。さっさと抜け出したいのですが、ズルズル滑っていっこうに斜面を登れません。まるで回転ドラムの中のハムスターのようです。ようやく登れた時にはヒルまみれでしたが、正直もうそんなことどうでもいいかんじでした。

P656を経て、ようやくゴールが近づいてきたと思ったら、今度はいきなり道が消えました。谷山の手前といい、今日はこんなんばっかしです。さいわいGPSで五僧の位置は分かっていたので、またしても林を強行突破し、葉っぱやら枝まみれになってようやく五僧廃村に出てきました。この時、実に時刻は4時半。あたりもすっかり夕闇に包まれており、危ないところでした・・。

というわけで、県境尾根は最後にドッカンというかんじのタチの悪いルートなので、たとえGPSを持っていても深入りは厳禁です!尾根歩きを適当に楽しんだら往路を引き返す、というのが妥当でしょう。谷山までのルートが封鎖状態になっていたのも、これならうなずける・・正直二度と歩きたくない道です。

しじみ達は恒例のヒルチェックをじっくりやったあと、ネイネイ号に乗り込みました。残る仕事は柏原林道のMの車の回収です。日もとっぷり暮れた柏原林道を慎重に運転して、Mの車に到着。ここからはMの車に先導してもらって、湖岸道路に向かいます。

Mの車の後ろにぴったり着いてネイネイ号を走らせていたしじみは、ふと妙な光景を目にしました。Mの車のはがれた底板が、地面と擦れて火花を散らしているではありませんか!まるでF1レースのようにはじける火花に、しじみは「スパーク!!」とか言ってひとしきり爆笑しました。

で、後でガソリンスタンドに寄った時に「お前の車、火花出てたよウハハハハ」みたいなかんじで大笑いしながらそのことを伝えたところ、Mは顔を引きつらせてポツリとこう言いました。

「あのさあ・・もしガソリンが漏れてたら、引火してオレ爆死してた
 と思うんだけど、何でもっと早く言ってくれなかったの?」

!!!( ̄□ ̄;)  言われてみれば・・・

その後しばらく、Mに謝り倒す日々がつづきましたとさ・・。


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