地図表示GPS活用術  vol.1 実践編

地図表示GPS
従来のGPSの機能に加えて、地図等高線表示機能を搭載したこの機器により、しじみは道迷い遭難の危険をずいぶん減らすことができました。

でもコイツの使い方をマスターするまでには、しばらく時間がかかりました。これを使うには独特の思考方法(と書くと大げさですが・・)があって、それは当初考えていたものとは少し違っていたからです。おそらく、GPSを使ったことのない皆さんが思い描くGPS使用方法も、実際のそれとは違っているのではないか??そう思ったので、この項を書いてみました。(※1

このGPSというものは、実は厳密には、ナビゲーション(誘導指示)機ではありません。※2)なのでカーナビとはかなり使い方が違います。
しじみがこの機器のことをサイトでやたらとヨイショするものですから、読者の皆様の中には、これがドラえもんの道具のようなスーパーアイテムに思えた方も多いかと思いますが・・(ゴメンナサイ ^-^; )。

むしろこれは「退化したカーナビ」であり、別の言い方をするなら、「迷いながら進むための道具」なのです。
「道迷いを防ぐのに、迷いながら進む?」 (゚Д゚) <ワケワカンナイ
・・これがどういうことなのか、過去の事例で説明していきましょう。

<事例:しじみ大ヒンシュクの巻>

2005年春のこと。しじみは普段登山をしない友人たちを誘って、大阪の某山に登りました。尾根道を北に進む途中、図1のような分岐に出会いました。

図1(実際の風景)
図2(1/25000地形図)

GPSによって、しじみたちは図2のA地点にいることが分かりました。この先のルートは分岐した尾根を右にとり、矢印の方向に進む予定です。

分岐に出くわし、「どっちに行くの?」と聞く友人たち。
ここでしじみは「う〜ん、多分右(b)」と自信なさげに答えました。
なんじゃその頼りない答えは?と友人たちはいぶかりました。

「そのGPSとかいう機械で何でもわかるんじゃなかったの?」
「いや、これは行き先とか教えてくれないし・・」
「え〜?7万円以上する機械なのに、そんなこともわからないの?
 持ち主に似て使えねーなー

うるさい(-_-*)
・・まあ結局bに進み、それで正解だったのですが。きっと同行者たちの間では「しじみは道具を使いこなせていない疑惑」がわきおこったことでしょう。
「たしかあのヒト何とかしじみとかいう登山サイトやってたけど、どうせギャグばっかり書いてるんでしょ?ホントは登山の知識なんか何にもないんでしょ?ただのムッツリオタクでしょ?」みたいな。

違うんです(T-T)
しじみが判断を下さなかったのは、それなりのワケがあるのです。

まず注意するべきは、先にも書いたように、「GPSはカーナビもどきではあるが、カーナビではない」ということ。地図と現在地は表示してくれるものの、「まもなく○○を右折です」なんてしゃべったりはしないし、矢印で指示することもありません。

なぜなら、GPSには登山道の道路情報まではインプットされていないからです。いや、そもそも登山道のGPS情報データベースなんて、日本中どこを探してもありません。考えてもみてください。そんなカネにならない仕事誰がするかって。誰もしやしません(反語)。多分100年たってもこの種の機能は搭載されないと思います。だから、行き先は現在位置と周囲の地形を頼りに、自分で考えるしかないのです。(※3

「でも、この事例の場合だと、1/25000地形図で行き先が右の尾根ってわかってるんだから、bで間違いないんじゃないの?」と思った方、多いと思います。ところが、実はそれが、地図表示GPS+1/25000地形図の連係プレーにおける、恐ろしいワナなのです。

確かにこの事例の場合、GPSが示す現在位置、1/25000地形図に描かれた登山道の先行き、そして目の前の風景を総合すると、bである可能性は非常に高い。でも、それは絶対ではないのです。目の前に見える分岐が、実は以下のようになっている可能性(オレンジ線)も、考えられなくはないのです。

  
図3              図4

「えー?これはないでしょう・・」と思われるかもしれません。
しかし実は、国土地理院の1/25000地形図は
*登山道のあるべき位置を間違えている(ズレて描かれている)
*実際には存在しない登山道を描いている(航空写真の判読ミス)
*実際に存在する登山道を描いていない(航空写真の見のがし)
・・ということが時々あるのです。

あるいは、
*過去には道があったのだが、廃道になり現存しない
*実際に道があるが、ヤブなどに隠れて見えない
*地図作成より後に、新しく道ができた(だから描いていない)
・・という場合もあります。

こうした表記間違いの多くは、分岐が1本多かったり、逆にあるはずの分岐がなかったりすることによって、たいていはその場で異変に気づきます。
でもやっかいなのは、分岐そのもののあるべき位置がズレているなど、道筋は変わっているのに分岐数は変わらない場合(図3,4)。これだと見かけ上は異変がないため、登山者はほぼ100%ひっかかって、間違った道に入ってしまいます。

この事例の場合、bに進むこと自体は誤りではないのです。可能性は一番高いですから(実際正しかったし)。問題なのは「bに決まっている」と思いこみ、以降ずっとGPSで現在位置を確かめないままズンズン進んでしまうことなのです。だからしじみは「多分b」と断言を避け、ズンズン進みたがるメンバーを時々制して、GPSでちょこちょこ現在位置を確認し、間違いなく乗るべき尾根に乗っているかをチェックしながら歩いたのです。

万一道が間違っていた場合、5分後に気づいたなら、苦笑いして引き返せばいい。でも気づいたのが1時間後だったら?2時間後だったら?体力は限界寸前、日は沈む、人里は遠い、「これはひょっとして遭難!?明日は会社で9時から会議なのに!キャー!!」・・てなことになるかもしれないのです。

そんなわけで、結論。
つまるところ、GPSとは現在位置がわかるだけの道具なのです。それで行き先まで読めた気になってはいけないのです。歩いている道がどんなに確実なルートに見えても、5分に1回程度はGPSを見て、現在位置が予定ルートから外れていないかチェックする。進路間違いをしていたらただちに修正する。そうして小さなブレの補正をくり返すことによって、大局的には間違いなくルートを進むことができる。「迷いながら進む」とはこういうことなのです。地図表示GPSとはこのようにつかう道具なのです。

GPSの位置計測の源である衛星電波さえ途切れなければ、この「迷いながら進む」法によって、道迷い遭難はほぼ100%防げます。これは地図&コンパスだけで読図をしていた時代から見れば、驚異的な数字です。たとえ「退化したカーナビ」であっても、GPSは現在の道迷い防止ツールの中では最強の存在といえるでしょう。

しかし残念なことに、深い谷や広葉樹林に衛星電波を遮断されることによって、GPSは登山中に時々「現在地ロスト(現在地不明)」状態になってしまうという大きな弱点があります。ずーっと衛星電波が途切れず、ずーっと現在位置を示し続けてくれる・・ということは、残念ながらほとんどないのです。

で、GPSが沈黙してしまった時は、地図とコンパス、およびその他のグッズを総動員して、GPSが復活するまでのナビゲーションを行うことになります。その詳しい内容は次ページで!なお、内容がマニアックすぎるというツッコミはナシでお願いします・・。

vol.2 「GPSお陀仏時の対処法!」


<2006.1追記>

※1
用語について:多くの方々が既にご存じとは思いますが、本来「GPS」とは世界的な地理情報システムのことであって、上掲のちっこい機器は、正確に言うなら「GPS受信機」の一種であります。
でも「GPS受信機」というとカーナビだって携帯だって該当しちゃうし、今のところコイツには適当な固有名詞がないので(商品名はあるけど・・)、当サイトではコイツを「GPS」と呼び続けます。そのへん大目にみてください( ^-^;)

※2
市街地については、GPSでナビゲートができるソフトウェアもあります。
シティーナビゲーター日本 ただしやはり山岳地域では使えません・・。

※3
このように思ってたら、なんと日本百名山の222ルートのデータを網羅したソフトウェア「GPSかんたん」が出ていました。失礼いたしました・・m(_ _)m その勢いで全国のマイナー登山道も制覇してほしいものです。でもってデータをネット配信してくれたら夢のようなんだけどな〜。(というか、そういう事業があったらものすごく参加したいです)




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