【芦生 由良川/内杉谷川/ブナノキ峠/下谷】 京都府南丹市


■本図は(財)日本地図センター発行の25000段彩・陰影画像を元に作成した。(同センター承認済)
■この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである。(承認番号 平17総使、第82号)
※25000段彩・陰影画像は数値地図25000を元に作成されており、本図はその二次利用のため両文併記。

芦生の森(1)/05.11.22-23


京都・福井・滋賀の3県境にまたがる広大な森林・芦生の森。大台ヶ原などと並ぶ近畿有数の原生林地帯であるこの地は、自然を愛するKさんと、奇妙な植物をこよなく愛するしじみにとって憧れの場所です。

しかし、どこから手をつけてよいのか迷うほどの広さに加え、原生林だけに夏場にはクマやマムシが頻繁に出没するとの情報もあって、我々2人がようやく同地を訪れたのは、もう秋も暮れの11月下旬のことでした。ここまで寒くなればクマもマムシもヤマビルもオフシーズンなので安心です。ついでに紅葉もほとんどオフでしたが・・。

叡山電鉄・八瀬比叡山口駅でKさんと合流し、愛車ネイネイ号で南丹市(旧北桑田郡美山町)を目指します。対向車が来ようものなら即ゲームオーバーになりそうな極細の山道をグネグネと走り、予定時間を大幅に遅れながらようやく今回の拠点・「芦生山の家」に到着。駐車場に車を置かせてもらい、到着の挨拶もそこそこに、早速本日の行程・由良川源流散策に出発しました。

由良川沿いをさかのぼるこのコースは、かつて林業が盛んだった頃に木材を運搬するトロッコが走っていた道で、道幅も広く歩きやすいです。正面には落ち葉の降り積もったトロッコのレールが延々と続き、左を見れば澄んだ由良川の流れ、右を見れば苔むした杉林。心が洗われるような情景です。しじみのヘボ写真ではその美しさが伝わらないと思うので、雰囲気は芦生山の家サイトのこちらのページで味わってください( ^-^;)

しかしこのコース、深い谷道であるためGPSがまったく電波をとれず、現在地がさっぱり分かりません。道ははっきりしているので迷うことはなさそうですが、なんとなく不安です。そして、ふとコンパスを見たしじみは仰天しました。「に、西に進んでる!?」

ひたすら東に進むコースのはずなのに、コンパスは進行方向を西と示しています。局地的に道がくねっているのかと思いましたが、しばらく進んでも変わりません。オレたちはどこを歩いているんだ??としじみがパニックに陥りかけたその時、Kさんが言いました。
「私のコンパスだと、ちゃんと東に進んでるよ」


あーっ!しじみのコンパス(左)が狂ってるー!!

なんとしじみのコンパスの針が、ほぼ180度ひっくり返っているではありませんか。いやもちろんKさんの方が狂っている可能性もないとは言えないのですが、道沿いの川の流れが自分たちの進行方向と逆であるのを見る限り、Kさんのコンパスが正しいと考えて間違いありません(地図を見る限り、この辺りには東に向かって流れる川がないから)。

なぜしじみのコンパスがこんな珍現象に見舞われたのかは不明ですが、ひょっとしたらGPSが発する電磁波にやられたのかもしれません。コンパスを電子機器に近づけたら狂った、という話は聞いたことがあります。コンパスをGPSやデジカメに近づけちゃいけないのかもな・・と以後注意するようになりました。

また、単独行じゃなくてよかったな・・とも思いました。単独の時にこの現象が起こっていたら、間違いなくダマされてしまいます。状況によっては結構怖い話です。まあ電子コンパス機能つきの時計やGPSを持てば起こりえないことなので、セレブな人には無縁の出来事ですが( ^-^;)

さて、そんなこんなで騒いでいるうちに、最初の地点ポイント・廃村灰野をまったく気づかずスルーしてしまいました。そして我々は、その後に発見した赤崎小屋跡を廃村灰野とバッチリ勘違い。(赤崎小屋跡は土台しか残っていません。「山と高原地図2005・京都北山」では、「赤崎小屋」とあたかも小屋があるかのように書いているので注意が必要・・)次の小ヨモギ小屋にたどり着いた時に、たまたまGPSの電波が入って現在位置が判明し、ようやく今までの勘違いに気づきました。


落葉をかぶる小ヨモギ小屋。密かにお気に入りの写真。

小ヨモギ小屋の庭先(?)で焼きそばを作って昼食。ウマかったのですが、調理に少々時間をくってしまいました。焼きそばは汁物のようにいっぺんに作れない(量が多いと炒めにくい上、冷めたものを温めなおすとコゲてしまう)から2〜3ターンに分けて作らざるをえず、時間がかかるのです。やはり昼食よりは夕食向きメニューだな〜と反省しました。

そして、再び出発。刑部谷のあたりから徐々に道が荒れ始め、歩きにくくなってきました。そしてついに、木橋が崩落しているのに出くわし、進行ストップ。細い板で仮の橋が渡してあるのですが、これが本当に細くて、しかも濡れて滑りやすそうで、渡るに渡れません。しじみもKさんも高所恐怖症で、このテのものにはめっぽう弱いのです。

でもここですくんでいては男がすたる、としじみは橋に足をかけました。けれどヘタレなので立って歩くことはどうしてもできず、恥を忍んで四つんばいに。ところが四つんばいでさえも、ザックの重量で体のバランスがとりにくく、1/3ほど進んだところで怖くなってそのまま後ずさり。カッコ悪いことこの上ありません・・_| ̄|○

結局ザックをおろして再びトライし、どうにか渡ることができましたが(Kさんも同じ方法で渡れた)、どのみちザックを置き去りにしたままではそれ以上進めないし、時間も押していたので、ここでリタイアすることにしました。無念・・。

往路を引き返し、小ヨモギ小屋・赤崎小屋跡を経て、来る時に見逃した廃村灰野を発見。木々に埋もれたこの廃村には建造物はもう何もなく、家の土台が残っているだけで、確かにパッと見では気づきにくい・・(超いいわけ ^-^;)寂しげな廃村でした。

少し時間があったので、灰野谷をさかのぼってみました。ここでバカでかい杉の木に遭遇。Kさんに記念写真を撮ってもらいました。


倒れる杉を片手で止めたッ!の図。つっこまなくていいよ。

そして無事、「芦生山の家」に帰り着き、あらためてチェックイン。オーナーらしきおじさんに部屋のカギをもらったのですが、このおじさんがちょっとコワモテ。いかにも山男っぽいたくましいガタイに仏頂面で、話しかけにくいオーラを全身から発しています( ^-^;)でもしじみは気になることがあって、勇気を出して話しかけてみました。

「あの、ひょっとして今日って・・」
「ああ、お客はあんた方だけだ

やっぱり(・_・;)冬も間近いこの時期、しかも平日では泊まり客も少ないのでしょう。しかし我々だけとは・・するとオーナーも今日はしじみたちのためだけに出てきたことになります。仏頂面なのもうなずけます。思わず「すみません」と謝ってしまいました( ^-^;)

我々のためだけに沸かしてもらったお風呂に入り、我々のためだけに作ってもらった夕食を食べます。夕食は鶏すき焼き。新鮮な鶏肉をたっぷり堪能しました。オーナーとは対照的に(!)優しげなおばあちゃんが、すき焼きの他にも「かぶら蒸し」など凝った料理をいくつも出してくれて、これがまたどれも絶品。たいへんゼイタクさせていただきました。

しかし、40人は収容できるであろう広い食堂に座るのは、当然ながら我々2人だけ。厨房と隣接した部屋の隅では、オーナーとおばあちゃん(この2人、多分親子です)が特に何をするでもなくたたずんで、時々我々に視線を送っています。非常に緊張します。料理を残して席を立とうものならオーナーにぶっとばされるような気がして、腹がはじける寸前まで食いまくりました(もちろん、すごくおいしかったのもあるんですが)。・・結局食べきれずに少し残してしまいましたが、努力が認められたのか、ぶっとばされることはありませんでした( ^-^;)

もうお腹一杯で動くのもおっくうになり、我々はそそくさと寝ることに。歯磨きに出たしじみは、廊下でばったりとコワモテオーナーに出くわしました。会釈してやりすごそうと思ったら、オーナーが仏頂面のまま話しかけてきました。

オーナー
しじみ

オーナー
しじみ
「明日はどこに行くんだ?」
「え、えーと、内杉谷川(うちすぎたにがわ)沿いの道で、
 ブナノキ峠に登って、し、下谷も歩こうと思っているんですが」
「・・ウチスギタニぃ?あれは『ないすぎたに』と読むんだ」
「は、はあ、そうなんですか、すいません」

「内」だけ音読みなのは日本語的におかしいのでは?という反論が浮かぶも、小心者のしじみに言えるはずもなく、また悪くもないのに謝ってしまいました。

オーナー
しじみ
「芦生は初めてか?」
「き、京都側からは初めてなんですが、滋賀県からは朽木(くつき)
 の生杉(おいすぎ)から杉尾峠に登ったことがありまして、
 その時は長治谷の作業所にも寄ったりしたんですが・・」

あえて難読地名をあげて、芦生通をアピールするしじみ。別に張り合う必要なんかないんですが、森の主のようなオーナーに「生半可な知識の奴」と思われては、それこそ入山禁止の宣告を下されそうな気がして、妙に頑張ってしまいました( ^-^;)

オーナーは納得したのかしてないのかよく分からない表情でしたが、やがてしじみをギロリとにらみつけ、「・・まあ、気をつけてな」と言って去っていきました。どうやらそれなりに認めてもらえた?ようです。全身からヘナヘナと力が抜けていきました。今日一番疲れた出来事でした。

部屋に戻ってKさんに出来事を話した後は、もう何をする気もなく、疲労に満腹感も手伝って、布団をかぶってバタンキュー(死語)。晩秋の夜はふけていきました・・。


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